慎み深さがとてもいい
「君が喜ぶかと思って」ピエールが一枚の絵を持ってきます。
「有名な画家じゃないが、プルーストの寝室を描いた絵だ」
サンローランは一目見て気に入ります。
「慎み深さがとてもいい。部屋だけでなく、画家自身も。テーマから逸脱せず
とても忠実に描いている。この絵の中に入って、ベッドで横たわりたい」
慎み深さ、というのはサンローランそのものです。
彼はオークションの最終日にかろうじてステージに姿を現すくらいで、
自分が前に出ようとしませんでした。スタジオにこもった彼は禅僧のように
静かで、来客も避け、騒音を嫌い、穏やかな音楽の流れる中で、
嵐のように描き続けるのです。