すべては元に戻るのよ
Everything comes full circle.
さてキャロルの問題の手紙です。
原作は恋愛小説史上、女性が女性に宛てた美しい手紙です。
映画は思い切り圧縮しています。
残念なことに、キャロルの真意はテレーズに通じなかった。
というより、わざと通じなくしています。
このへんがパトリシア・ハイスミスの、
狡猾、といって悪ければ筆致の極意なのでしょうけど、
キャロルが別れるといっているのか将来を誓っているのか、
どっちにも取れるよう書いています。
まず「すべては元に戻るのよ」
circleは円を描いて戻る、ですね。
でも「元」ってどっちの「元」なの。
ふたりのあいだに何もなかった「元」に、すなわち白紙に
戻ることなら別れることだし、
盗聴事件が起きていなかった「元」に戻る意味なら、
わたしたちはふたりだけの幸福な状態に戻るのだから、
今しばらくは我慢するのよ、ということになります。