お静かに

お静かに

ダイアンは自分の部屋で、青い鍵を見つめています。

殺し屋の仕事は済んだのです。愛も夢も消えた。

若さと希望にあふれ、空港に降り立ったダイアンは、

青白い疲れ果てた女となって、カーテンを閉め切った部屋にいます。

ナオミ・ワッツはこの難しい役を演じきったことで認められました。

駆け出し時代、オーディションで一緒だったニコール・キッドマンは

すでに大スター。恵まれないワッツを、自分に合った役がきっと

巡ってくる、絶対諦めてはいけないとキッドマンは励まし続けました。

どこのレッド・カーペットか忘れましたが、ふたりが手をつないで

ステージに上がり、まともにキスしているおふざけがありました。

上のセリフはラストシーン。誰もいない「シレシオン」で声だけが聞こえる。

「お静かに」。シレシオンとは「沈黙」です。

何に対して「お静かに」といっているのでしょう。

胸をかきむしる迷宮の宴、暗黒の祝祭、だれの心にもある異様と逸脱の世界が妖しくざわめくとき、人は多分、自分にいわねばならないのです、

「お静かに」とね。

 

 

(「マルホランド・ドライブ」)

 

 

bn_charm