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来られなくとも理解します。キャロル

ふたりが別れてから初めて会う日。

テレーズに当てたキャロルのメッセージは

「6時半にリッツで。来られなくとも理解します」でした。

キャロルはテレーズの来ないことが、予測のうちに入っているわけね。

この映画を終始おおっているのが、彩り華やかな恋愛体質であるあまり、

軸にあるのがキャロル、そしてテレーズという

ふたりの女性の成長物語であり、自立劇だということを

忘れてはいけないと思います。

特にキャロルが払うべき代償は大きい。

経済的にも社会的にも、テレーズと共に暮らすことで

引き受けねばならないペナルティは、愛だけで解決できるか。

娘もいずれ成長すれば母親のセクシャリティを知ることになろう。

いろんなことを考えたはずです。

テレーズが自分を恨み、去り、ふたりの愛は

「なかったことに」なる可能性もある。

キャロルはしかし、たとえテレーズと別れたとしても、

たとえ独りになったとしても、自分が自分らしくある

「存在価値」を求め、再出発する覚悟を決めています。

(「キャロル」)