減らないHIV感染者数から見えてきた、セクシュアル・マイノリティの根深い問題

「性と生を考える会」では2010年に「教職員のためのセクシュアル・マイノリティサポートブック」を作成し、1冊100円で販売しているほか、会のHPから無料でダウンロードが出来るようにしています。一方的な情報ではなく、現場で活用しやすいようにと教職員組合に働きかけ、現場の教職員とセクシュアル・マイノリティ当事者を含む有志が集まって作りました。冊子は好評で学校だけでなく自治体や行政など全国から注文がくるようになり、2015年8月には改訂3版が発行されました。

どういった経緯で教員向けのサポートブックの発行に至ったのでしょうか。
「性と生を考える会」代表の中田さんは、HIV感染者AIDS患者の支援のために1996年に奈良県で設立された「奈良HIVネットワーク」の事務局長を務められていました。その時に見えてきた問題にさかのぼるといいます。

現在ではHIVは、早期発見、早期治療で、発症を抑えたりコントロールしながら生活できる病気となり、主な感染経路も「性的感染」、「血液感染」、「母子感染」と明らかになっています
世界では、その社会の中で弱い立場の人たちに感染が広がるということが指摘されてきました。HIV感染を予防するためには、コンドームを正しく使用することが有効ですが、情報や知識がなければ予防できません。一方で、わかっていても実行できないのはなぜか、予防啓発活動の中では、その背景について議論がくりかえされてきました。性的関係の中で弱い立場にある人、生きる希望を削がれた状態の人は、情報があっても実行することが困難です。

日本では、報告されている感染件数のうち、過半数が、同性間性交渉で感染していることがわかっています。
自分が同性を好きになることに気づくのは、おそらく思春期に誰かを好きになる頃でしょう。同性を好きになることへの肯定的な情報がない中で、当事者も偏見を抱えて育っていきます。
性同一性障害やトランスジェンダー当事者の多くは、幼少期には違和感を自覚していることもわかっており、低学年、早期からの対応が重要であることは明らかです。

「性は、生きるために最も大切な、命と人生に関わる生活と切り離せない問題」と中田さんらは、学校での教育の重要性を提起し、教職員向けのガイドブックを作成しました。「冊子は考える切っ掛けとなる1つの入口であってゴールではない。たたき台、入門編として使ってほしい」と中田さん。

「性と生を考える会」