ベニスに死す20160106

 

「アッシェンバッハ、君は老人だ、老人ほど不純なものはない」

高齢社会の元気な老人がきいたら袋叩きにされそうなセリフ。
主人公の作曲家アッシェンバッハ(ダーク・ボガード)は、ベニスで出会った美少年タジオに魂を抜かれる。
タジオのあとをつけまわし、夜のベニスを徘徊する。
完全にストーカーだ。
美がしたたるようなタジオに比べ、自分が衰えた醜い初老の男だとアッシェンバッハはいわれる。
髪を黒く染め、唇には紅を、頬に白粉を刷いて、若く見せた姿で、浜辺の椅子に横たわったまま、彼は死にます。
正気の沙汰でない愛こそがヴィスコンティの独壇場。
ルネサンス以来の貴族の一門に生まれた彼は、どんな栄華も滅びる、どんな栄光も廃れる世の無常を物心ついて以来思い知っていた。
超越セレブはつらいです。

(「ベニスに死す」)